素材の価格って、どこで決まるの?―その“裏側”を知ると見方が変わる

 


「同じような素材なのに、どうしてこんなに価格が違うの?」

アパレルや繊維業界に携わっている方はもちろん、一般消費者として店頭で商品を手に取ったとき、こんな疑問を抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「この素材はなぜこんなに高いのか」「別注すると高くなるのはなぜなのか」と思ったこと、一度はあるはずです。

実はその価格差、見た目や手触りといった表面的な要素だけでは決まりません。
繊維業界の現場では、糸から加工、在庫管理、販売手法まで、複数の工程が複雑に絡み合い、素材価格が決まっていくのです。

今回は、そんな“素材の価格がどこで決まっているのか”を、現場視点で解説していきます。


糸の種類が価格を大きく左右する

素材価格を決める最初の要素は「糸の種類」です。

ポリエステル、ナイロン、綿など、使われる原料によって単価は大きく異なります。
さらに、ただのポリエステルと言っても、糸の細さ、異形断面(星型やY字型など)、撥水・吸水・防汚といった機能糸になると価格が跳ね上がります。

同じ「ポリエステル100%」でも、太さや機能性の違いによって数倍の価格差が生まれることもあります。これは、繊維業界で日々扱っている私たち現場の人間にとっても、発注時に大きな判断材料となる部分です。


生産国によって変わる人件費と設備コスト

次に価格に影響するのが、「どこで作っているか」という生産国の違いです。

例えば日本国内と、東南アジアや中国の地方都市とでは、人件費や電気代といった固定費が大きく異なります。
同じ設計図・同じ糸を使って織ったとしても、工場の立地が違えばコスト構造がまったく異なり、販売価格にも反映されます。

繊維業界の中小企業にとって、生産地の選定=価格と品質のバランス取りであり、これは非常に悩ましい課題になります。


生産効率が価格を左右する「水揚げ」の考え方

もうひとつ大きなポイントは、「1日にどれだけ生地を生産できるか」という生産効率、いわゆる水揚げ量です。

たとえば、ある織機で1日に1,000m生地を作れる工場と、300mしかできない工場とでは、当然ながら生地1mあたりにかかるコストが違ってきます。
これは労働生産性にも直結し、特に人手不足が進む中小の工場では、限られた技術者で最大の生産性を引き出すための工夫が求められます。


加工の工程とロット数の関係

染色や機能加工といった「後加工」も、素材価格に大きく影響します。
撥水・抗菌・防炎・吸水速乾などの機能加工は、素材に付加価値をつける一方で、その加工が効率よくできるかどうかが価格に反映されます。

特に注意したいのがロット数です。
1,000m単位で流せる加工と、100mしかない別注案件では、設備を動かす効率も違い、当然ながら単価も大きく変わってきます。
これはまさに、在庫管理や生産計画の最適化をどう行うかという、業務改善の肝とも言える部分です。


販売スタイルの違いが価格に影響する理由

見落とされがちですが、最も消費者に身近な価格差の理由が「販売方法」です。

たとえば、「受注生産」であれば、必要な分だけ作り、在庫を持たずに済む分、リスクが少なく合理的です。
ただし、最低ロットや納期の長さというリスクがつきまといます。

一方、「切り売り」スタイルのように、在庫を持って販売する方法は、誰でも必要なときに必要な量を買えるという利便性があります。
しかしながら、

  • 倉庫の維持費

  • 保管管理の人件費

  • 総務や出荷業務にかかる経費

  • 売れ残りリスク

といった在庫コストが発生し、その分価格が高くなるのです。
これはGoogle WorkspaceやExcel、スプレッドシートを使った在庫管理のDX化でも課題となる部分で、繊維DXの重要なテーマでもあります。


「高い素材」には理由がある

素材価格の裏側には、糸選び、生産地、加工、在庫、販売スタイルといった見えない努力やコストが重なっています。

価格が高いからと言って単純に「高すぎる」と判断するのではなく、その価格がどうして生まれているのかを知ることが、より良い購買判断や業務改善につながります。


まとめ

素材の価格は「モノそのものの価値」だけで決まっているわけではありません。

  • どんな糸を使っているか

  • どこで生産しているか

  • どれだけ効率的に生産・加工されているか

  • 在庫をするかしないか

  • 売り方の工夫や責任の持ち方

こうした見えにくい“背景”の積み重ねがあって、ようやく「1mあたり○○円」という価格がつけられるのです。

素材を見る目が少しでも変わったら、ぜひ社内の業務改善や商品の付加価値づけにも活かしてみてください。
素材選定における在庫戦略や販売手法の見直しなど、業務効率化の第一歩として、ぜひ一度振り返ってみてはいかがでしょうか?

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